その日、遙生は、
本格カレー!みたいなこと書いてあるカレー屋さんでお昼ご飯を食べてました。
カレー好きなんだけど、激辛とかあんま辛いのはダメなタイプ。
無難に中辛くらいで食べてました。
客が入ってきた。
「いらっしゃい・・ま・・せ・・?!」
一瞬にして店内を緊張感が走ったのを感じた。
入ってきた男の眼光は鋭く、その大きな眼で店内を見渡している。
褐色の肌は強い雄を感じさせるにはじゅうぶんだった。
ランチ時で食事を楽しんでいたサラリーマン達は一斉にその男の存在に気付いたはずだ。
(どうなるんだ・・・)
と、思いながらも、その男から目を逸らし目の前のカレーに集中しようとした。
入ってきた男は、どうみても
インド人。
全員がこの店の本格カレーが本場に通用するのか?
そう思いながら食事をしていたに違いない。
インドの男はメニューを見て、
「ランチセットデ」
カタコトの日本語で店員に注文した。
店員は緊張しながらも仕事をこなす。
「か、かしこまりました!セットはライスとナンどちらにしますか?」
インドの男は店員を見つめながら、
「ナンデスカ?」
店内の客達は一斉にカレーを吹き出しそうになった。
店員はメニューの写真を見せて無事にナンのオーダーを取った。
しかし地獄はここで終わらない。
「辛さはどうしますか?」
「???」
「スパイシーレベル!」
「カライノ!イチバンカライノデイイヨ!」
やっと伝わり店内は安堵感に包まれる。
でも、誰しもが
(え?激辛?・・にするの?)
そう思っていたはずだ。
この店の最高レベルの激辛は、リアクション芸人が罰ゲームで食うレベルだから。
店内にも”はじめての方は激辛はご遠慮ください”などとデカデカと注意書きが貼られている。
しかし、
(・・・インド人ならいけるんじゃね?)
こんな期待を持ってしまった。
そう思っていたところ、厨房も空気を読んだのか、
「おまたせしましたー、ランチセット!激辛です!」
そのインドの方は、
ナンを慣れた手つきでちぎり、カレーをたっぷりとつけて口にほおばった。
全員が、手を止め、おしゃべりを中断し、
店内に再び緊張が走る・・・。
「カラッ!」
って言って、口からナンとカレーを勢いよく吐き出してた。
もちろんみんなは下向きながら噴き出してた。
直ぐに店員が気付いて、謝って中辛にしたら、
「コレ、オイシイ!」
って言ってた。
ぶっちゃけ、インドの方だったのかは知らないけど、
「カラッ」って言ってた。