伝えることができなかった密かな想い

学生時代の昔の話。

遙生はお酒はあまり好きではないのですが、お酒の場の楽しい雰囲気は好きなのでよく皆んなで飲み会に行っていた。

飲みに行くと言っても女の子のいるお店ではなく、気の合う野郎共5人の仲間で居酒屋に。

何が気が合うかというのは【くだらないことをやって笑わせたい】という気持ちをお互いに強く持っていた。

別に芸人を目指すとかではなく、単純に仲間内でしょーもない笑いを取りたかっただけ。

街中にある普通のチェーン店の居酒屋で注文を取りに来るバイトの女の子の笑いを取りに行く。

A「まずはいつもの貰えるかな?」

B「はい、メニュー」

ちょっと笑いを取るAとB。

C「じゃあ、この店長のオススメと、あそこのメガネの客のオススメ、ひとつづつね。」

笑いゲット。

すかさずドヤ顔するC。

D「飲み物はとりあえず全員ビールでいいの?OK。じゃあ、生ひとつで。」

遙生「一杯のかけそばかよ!」

店員大笑い。

ハイタッチをするDと遙生。

こんな感じでなんやかんや飲み始める。

そして皆んなでワイワイし出すとなんか仕込んでる奴がチラホラ出てくる。

もちろん失敗することもあるし、人知れず消えるネタも多数ある。

誰にも伝わらず消えていったネタ。

店員「こちら下げちゃいますね。」

と言って片付けられたドッキリ激辛餃子。

Bがトイレに行ってる間に皆んなで頑張って作ったのに。

Bのために残しておいてあげた風にBの小皿に取り分けてあったのに。

店員が片付けた後にトイレから戻ってきたB。

皆んなから一斉に

「だからお前はダメなんだよ!!」 

と言われてBは困惑していた。

Dのポケットには見るからに雑な手書きの「からあげ有料券」があった。

D「これ使えます?って聞くから、

使うも何も有料じゃねーか!ってツッコミよろしくな。」

そんなやり取りを遙生に説明していた。

遙生が「伝わりずれぇだろ、それw」と言ってしまったのが原因かもしれない。

お目当ての店員が遙生達のテーブルに来るたびに、

Dはポケットに手を突っ込むが最後まで出せなかった。

遙生はそれを横目に見てニヤニヤが止まらなかった。

遙生は酒を飲むと顔が真っ赤になるので、その自虐ネタとして絵の具の赤を持ち込んでいた。

トイレで絵の具を顔に塗って出てきて

「今日もやっぱ真っ赤になってる?」

そう言いたかった。

しかし、赤い絵の具が白い服に垂れてしまい、とっさにトイレットペーパーで拭き取ろうと頑張った。

結果、単なる流血に見えて救急車を呼ばれそうになって怒られた。

トイレに行ったCはパンツ一枚になって帰ってきて

「ちょっとカツアゲされたわ」 

そう言いたかったらしい。

だけどトイレからパンツ一枚で出てきたCは途中で店員に止められ怒られて、トイレに戻って服を着てショボーンと戻ってきたという意味不明の行動をしていた。

皆んなで楽しい時間を満喫しまくって居酒屋を出る。

A「わりぃ、今日はもう帰らないといけねーんだ」

B「まじかー。じゃあ今日はもう解散にすっか?」

D「そうだなー。遙生の服もスゲーことになってるしなw」

遙生はこの後の流れを想定し

「次どこ行く?」

といういつもの発言に対して仕込んでいた【日本地図帳】をカバンの奥にこっそりと戻した。